中国人訪日観光客の謎の国際運転免許証
中国人訪日観光客が日本で「謎の国際運転免許証」を利用している問題が報道されています。
簡単にいうと、日本で運転できる国際免許証を取得することができない中国人訪日旅行客が、偽造の国際免許証を利用して、日本でレンタカーを借りて無免許で運転しているという問題です。
国家公安委員会委員長も、平成30年1月11日の記者会において、この問題を既に承知しており、関係省庁・関係機関と連携して実態把握に努めると回答しています。
そして、平成30年4月6日の日経新聞において、大手レンタカー会社で「発行がパスポートと同一国でなければ自動車を貸し出さない」という方針を掲げていることが報道されています。
一見するとシンプルに見える問題ですが、実は国際免許証には様々な問題が絡み合っていて一筋縄ではいきません。対応を間違えると国籍による差別ともとられかねない重大な問題になりかねません。今回はその問題について、紐解いていきます。
日本を運転できる運転免許証とは
日本を運転するためには、運転免許証が必要です。
日本の公道を運転するための免許証は、以下の4種類があります。
(詳しくは「運転免許証の根拠法」で解説しています)
1.公安委員会による運転免許証
2.ジュネーブ条約(1949)に基づく国際運転免許証
3.道路交通法で定められる外国運転免許証
4.日米地位協定に基づく運転免許証
「中国人だから日本を運転できない」というのは間違い
「中国人だから運転ができない」という勘違いをしている報道もあるようですが、間違いです。日本においては、運転免許証を持っていれば運転できるというのがルールであり、それは国籍によって定められているものではありません。中国人であっても、日本を運転できる運転免許証のいずれかを持っていれば、運転できます。
逆に中国人だからという理由で運転できないとするのは、国籍による差別という他なりません。
中国人訪日旅行客が「偽造の国際免許証」を使っている理由
では、中国人訪日旅行者は、なぜ偽造の国際免許証を使っているのでしょうか。
本物の国際免許証を取るのに高いお金がかかるからでしょうか。いいえ、違います。
通常の国際免許証の発行費用は国によって違いますがおおよそ数千円です。一方、中国人訪日旅行者が購入している謎の国際運転免許証は数万円で売られています。わざわざ、本物の数十倍のお金を払って偽造の国際運転免許証を入手していることになります。
中国人訪日旅行客がわざわざ高いお金を払って偽造の国際運転免許証を購入しているのには、理由があります。それは、多くの中国人訪日旅行客は、中国国内で日本で運転できる正規の運転免許証を簡単には手に入れられないからです。
少し前に説明したとおり、「中国人だから日本を運転できない」と言うことはありません。
国籍で日本を運転できるかどうか判断されるわけではないからです。しかし、日本を運転できる運転免許証を正規に発行してもらえるかは、その人がどこの運転免許証を持っているかによって変わってきます。中国だから中国の免許証なのですが、中国の場合には、地域によってルールが異なってきます。
1.台湾の場合
台湾の場合には、台湾の運転免許証に、正規の機関が翻訳した翻訳文を添付することで、日本では運転することができます。
2.香港の場合
香港の場合には、香港の運転免許証を元に、ジュネーブ条約に基づいた香港発行の国際運転免許証を発行することができます。この国際運転免許証は日本で有効な運転免許証です。
3.マカオの場合
マカオの場合には、マカオの運転免許証を元に、ジュネーブ条約に基づいたマカオ発行の国際運転免許証を発行することができます。この国際運転免許証は日本で有効な運転免許証です。
4.中国本土(台湾・香港・マカオを除く)
中国自体は、日本を運転できる国際運転免許証を発行できるジュネーブ条約に加盟していません。中国はウイーン条約に加盟しており、ウイーン条約に基づく国際運転免許しか発行していません。つまり、中国(台湾・香港・マカオを除く)が発行する国際運転免許証は日本では有効ではないということになります。
では、少し問題を掘り下げていきましょう。
中国本土(台湾・香港・マカオを除く)の運転免許証を保有している場合、香港やマカオの運転免許証に切り替えできないのでしょうか。もし簡単に切り替えることができれば日本を運転できる国際運転免許証が手に入るのではないかという疑問がわいてきます。
実は、2014年から2015年にかけて香港で大きな騒動を巻き起こしています。
香港市民が中国本土で運転免許を申請する場合には当人が現地に足を運ぶほか、一時的に居住することが中国当局によって義務付けられているのに対し、中国本土住民が香港で申請する場合には代理申請が可能で、居住の必要もありません。香港運輸署が要求するのはパスポートと住所を証明する書類のみ。住所証明がなくても香港域内に連絡先があれば申請ができます。そのため、本土中国にも香港にも多くの代理店が存在しています。14年から15年にかけてこの申請が急増したのですが、その原因は香港の運転免許証があれば国際運転免許証を取得して世界中の条約締結国で運転が可能になるとのうわさが流れたためです。しかし、実際には香港で国際免許証を申請するには香港身分証(IDカード)が必要となる運用がされています。つまり、中国本土の運転免許証を持っていても、香港・マカオの身分証がなければ、日本を運転できる国際免許証が発行できないと言うことになります。
本土住民の香港での運転免許申請が激増
2015年10月22日
中国本土の住民が香港で運転免許を申請するケースが激増している。10月20日付『りんご日報』によると、本土住民の申請は2009年に1万3700件だったが、13年には2万4800件となり、その翌年の14年には3万4900件に。今年は9月末までですでに2万8000件に達している。本土と香港間ではモーターバイク、自家用車、軽トラックの運転免許が相互有効。香港市民が本土で運転免許を申請するには当人が現地に足を運ぶほか、一時的に居住することが中国当局によって義務付けられているのに対し、本土住民が香港で申請する場合には代理申請が可能で、居住の必要もない。香港運輸署が要求するのはパスポートと住所を証明する書類のみ。住所証明がなくても香港域内に連絡先があれば申請は可能だ。このため、本土にも香港にも多くの代理店が存在し、申請1件につき約700ドルの手数料で請け負っているという。14年から15年にかけて申請が急増した原因は、香港の運転免許証があれば国際運転免許証を取得して世界中の条約締結国で運転が可能になるとのうわさが流れたため。中国は条約を締結しておらず、国際免許証の取得は不可能だ。それで申請者が殺到したと思われるが、実際には香港で国際免許証を申請するには香港身分証(IDカード)が必要となる。
香港ポスト
http://www.hkpost.com.hk/history/index2.php?id=13056#.Ws4yGZdUt0m
居住人口から考えれば数は少ないケースになりますが、例えば、中国本土に住んでいて、中国本土の運転免許証を持っていている人であっても、香港・マカオの身分証を持っている場合には、日本を運転できる国際運転免許証を正規に入手できる手段をもっていることになります。
そのため、「全ての」中国人訪日旅行客ではなく、「多くの」中国人訪日旅行客が、中国国内で日本で有効な国際運転免許証を入手できない、ということになります。
中国人向けの正規の国際運転免許証取得ツアー
中国がジュネーブ条約を批准していないことで、中国本土ではジュネーブ条約に基づく国際運転免許証が発行されません。
しかし、中国人が正規の国際運転免許証を取得できないかというと、そんなことはないのです。
実はこのような国際運転免許証に関する問題から、中国人向けに正規の韓国の運転免許証と正規の韓国の国際運転免許証を取得するツアーが人気を集めています。
多くの国では、その国の免許証を取得するには滞在ビザを求められることが多いです。中国国籍の人が韓国に入国するにはビザが必要で、本来は韓国においても、滞在ビザがなければ、運転免許証自体を取得することができません。
しかし、韓国の観光地である「済州島」においては、特例があり、滞在ビザが必要なく入出国が可能なのです。そして、滞在ビザが必要ないことから、正規の韓国の運転免許証を取得することが可能になっているのです。
もちろん、韓国の運転免許証を取得するにはテストなどがありますが、最短で5日程で取得することが可能です。しかも、中国語でもテストを受けることができるなど、中国人に取得してもらうことを前提にしている運用がされているのです。以下のように海外メディアでも報道されており、急増している状況がわかります。実際に済州島で運転免許を取得した外国人のうち9割が中国人であるという報道もされています。
中国人観光客、運転免許取得目当てに次々と来韓
July. 06, 2015
先月15日、済州市涯月邑(チェジュシ・エウォルウブ)の済州運転免許試験会場の本館1階。午前9時から試験会場を訪れた中国人40人余りでにぎわっていた。彼らは運転免許を取るため、1週間の日程で済州道を訪れた。彼らを引率したガイド6人は、書類受付を終え、巧みに学科試験や場内の技能試験までを案内した。中国人男性が、「韓国語が全くできないのに、場内技能試験を受けるのに問題はないか」と尋ねると、ガイドは、「非常に簡単なので、いくつかを覚えれば、容易に通ることができる」と安心させた。同日、会場を訪れた中国人たちは、学科試験から場内技能試験までを当日ですべて終えた。
国内自動車運転免許制度が2011年6月に簡素化され、国内で運転免許を取る中国人が大幅に伸びている。警察庁の統計によると、昨年、短期滞在資格で国内で運転免許を取得した中国人は計4662人と、2013年の455人に比べ10倍以上も増えた。その大半が観光ビザで韓国に来て、免許を取得した。
特に、中国人がビザなしで最大30日間滞在できる済州道は、運転免許の取得と観光とを兼ねる「免許観光」の最適地として脚光を浴びている。済州で短期間滞在し、免許を取得した中国人は2013年は17人、2014年は335人、2015年は687人(5月末現在)へと地道に伸びている。
済州道のとある運転専門教習所では、中国語のできる通訳まで雇って、中国人のための教育を手掛けている。中国上海から来たリンズ氏(27、女)は、「1週間で免許を取り、済州道の観光もできるという友人からの紹介で来ることになった」と話した。
中国人は安価で簡単な上、短期間で運転免許を取ることができるため、韓国に詰めかけている。中国では運転免許を取得するためには、短くは45日から長くは6か月以上もかかる。費用も少なくとも7000人民元(約126万ウォン)がかかり、1万元(約180万ウォン)を超えることもある。この金なら、韓国で観光もでき、免許を取ることもできる。中国地方自治体の大半は、韓国の運転免許を公式運転免許として認めており、別途の交通法規の筆記試験のみ通れば、中国運転免許を発給する。
韓国で運転免許を取る中国人が急増すると、中国内では懸念も声も高まっている。「あまりにも取りやすい韓国免許の取得者が増えれば、事故のリスクも高まる」という世論が反映されているからだ。昨年12月、中国政府は、警察庁に公文を送って、「短期間滞在する中国人の韓国内免許取得を制裁してほしい」と要請してきた。警察庁は、現行法上、国内短期滞在者の免許取得を制裁するのは難しいと返信したという。すべての外国人に同じく適用される基準を、中国人だけ例外を設けることはできないという理由からだった。
専門家らは、簡素化した運転免許制度のため、外国人の免許取得が増え、やや間違えれば、韓国運転免許証の国際公信力を落とし、さらに国のイメージに否定的な影響を及ぼしかねないと指摘した。亜洲(アジュ)大学交通システム工学科のイ・チョルギ教授は、「韓運の転免許試験は世界で最も取りやすい免許試験に墜落し、外国人たちが遠征に来る羽目になった」と言い、「このような現象自体が、国際的な恥であり、運転免許制度の強化だけが唯一の解決策だ」と指摘した。
東亜日報
http://japanese.donga.com/List/3/all/27/428688/1
韓国の「世界一簡単に取得できる」運転免許目当てに中国人が大挙襲来、韓国内では「国家の恥」との指摘も
2015年7月9日(木)
2015年7月8日、中国・参考消息網は、中国人観光客が運転免許取得目当てに次々と韓国を訪問していることについて、韓国内で「韓国の運転免許が世界一取りやすくなったのは、国際的な信用度を落とすものであり、国家の恥だ」との指摘が専門家から上がっていると報じた。
韓国メディアによると、韓国政府が2011年6月に運転免許制度を簡素化したことで、免許取得のため訪韓する中国人が急増している。特に、中国人がビザなしで最大30日間滞在できる済州道が脚光を浴びている。だが専門家からは、韓国の運転免許証の国際的な信用度を落とすものだとして、政府に対し、運転免許制度の強化を求める声も出ている。
亜洲大学交通システム工学科のイ・チョルギ教授は、「韓国の運転免許試験は世界で最も取りやすい試験へと変わった。こうした現象は、国家の恥であり、運転免許制度の強化だけが唯一の解決策だ」と指摘した。
中国政府は昨年12月、韓国側に対し、「短期滞在する中国人の韓国での免許取得を禁止してほしい」と要請した。だが韓国の警察当局は「現行法上、外国人短期滞在者の免許取得を禁止するのは難しい」と返答している。
韓国で運転免許を取るには、理論、技能を学び、路上試験に合格するだけでよい。中国へ帰国後に、筆記試験に合格すれば、中国の運転免許が交付される。
済州道内のある運転専門教習所は中国語のできる通訳まで雇っている。運転免許の取得と観光とを兼ねるパッケージツアーも登場している。(翻訳・編集/柳川)
レコードチャイナ
http://www.recordchina.co.jp/b113517-s0-c30.html
しかも、中国国内で運転免許証を取得するよりも韓国で取得をしたほうが半額程度で済むということから、中国人がわざわざ韓国で運転免許を取得し、その後中国人の運転免許証に切り替えるという事例が発生しています。
中国が韓国警察に対して中国人向けの運転免許証の発行を中止するように要請したそうなのですが、特定国のみを差別できないという理由で韓国側は拒否し、現在もなお発行が続いています。そのため、上海市においては以下の記事のように中国内の運転免許証への切り替えをできないようにするなどの制限をかけている都市も出てきていますが、ほかの都市では依然として切り替え登録ができます。
国際運転免許証についていえば、中国国内の免許切り替えも必要ないので、中国人が正規の韓国の運転免許証を取得し、正規の韓国の国際運転免許証を取得している以上、日本でも有効になります。
これは、一見脱法行為のように思われるかもしれませんが、少なくとも国際運転免許証については、むしろ正当な行為なのです。中国人を日本人に置き換えてみればわかると思います。例えば、日本人がジュネーブ条約締約国以外のヨーロッパで運転するためには、その国の運転免許証を取得する必要があります。ヨーロッパでは運転免許証を相互に認め合う仕組みがあるので、その国の運転免許証で運転が許可されているさらに別のヨーロッパの国で運転することが全くもって問題ないのと同じことです。
中国:韓国での運転免許取得が横行、上海市は切り替え要件を厳格化
2015年7月23日(木)
【中国】自動車運転免許を韓国で取得する中国人が増加するなか、上海市が規制に乗り出した。
今年7月から、国内免許への切り替えに際し、韓国に91日間以上の滞在で発行される「外国人登録証」の提出が義務付けられている。旅行などの短期滞在で取得した運転免許は、切り替えが認められなくなった形。同市交警総隊・車両管理所からの情報として、複数の現地メディアが21日付で伝えた。
観光目的ならビザが要らない韓国の済州島(チェジュ島)で運転免許を取得し、帰国後に国内免許に切り替える――。これが中国で運転免許を取得する"抜け道"になりつつある。教習時間が短い上、費用も中国国内の半分以下に抑えられるためだ。韓国は2011年に運転免許試験を簡素化。技能試験を従来の11項目から2項目に減らし、教習時間を6時間の実技を含む13時間に短縮した。「目をつぶっても合格できる」と言われるほど、簡単に免許を取得できるという。
それを商機と捉え、済州島で中国語通訳を雇う自動車教習所が急増。免許取得者向けのパッケージツアーを販売する旅行会社も中国で相次ぎ出現した。韓国当局の発表によれば、済州島で運転免許を取得した中国人は、14年通年で991人に上り、10年の68人から15倍近くに増加している。さらに、今年1~5月に済州島で運転免許を取得した外国人は1093人で、うち中国人が9割を占めた。なかでも、自動車教習料金が高騰し、教習所の入校待ちで免許取得まで半年~1年を要する上海市からの受講者が殺到。旅行ツアーを利用して韓国で免許を取得する中国人のうち、7割が上海市民という統計もある。
免許切り替えの規制を厳格化する当局の措置を、上海市民はおおむね歓迎している。「わずか数日間の講習で免許を取得し、ハンドルを握るのは危険すぎる」と懸念する声は以前から高まっていた。一方、北京市などでは免許の切り替えが依然として認められているもよう。仲介業者や旅行会社が「外国人登録証」を不正に提供する"サービス"も存在するという。
《亜州IR株式会社》
http://www.newsclip.be/article/2015/07/23/26330.html
偽造の運転免許証を使うとばれるのか
中国人訪日旅行客は、日本で有効な正規の国際運転免許証を入手する方法はありますが、多くの中国人訪日旅行客が、日本で有効な国際運転免許証を入手しているわけではありません。
でも、一般的な日本人と同じように、公安委員会発行の運転免許証を取得すればいいのです。
しかし、それには外国人登録が必要だったりと、少なくとも中国人訪日旅行客には相当のハードルがあり、一般的には現実的ではないといえます。
かといって、偽造された日本の運転免許証をつかうのにも、かなりのリスクがあります。
なぜなら、簡単にばれてしまうからです。日本の運転免許証は、日本で有効な身分証明書としても使われていて、かなりの偽造対策が施されています。そのため、レンタカーを借りようとしても業者側が偽物だと気がつく可能性が高いです。そして、警察に至っては免許証番号の照会をするだけで、簡単に本物か偽物か調べることができてしまいます。
では、偽造の国際運転免許証でだったら、どうでしょうか。これがやっかいな問題です。
基本的にレンタカーの事業者は国際運転免許証を見た目で偽物かどうかを判断しなければいけません。そして警察も見た目で判断できなければ、発行国に照会をしない限り、本物か偽物か判断することができないのです。そして、発行国への照会はかなりの時間を要します。例えば検問などその場で調べることが必要な状況においては、見た目以外の方法で確認をすることは難しいのです。では、見た目で正確に判断することは簡単なのでしょうか。
ジュネーブ条約はもともと利便性を高めることを目的に作られた国際運転免許証の制度であり、今の運転免許証に比べて偽造対策についても低い状態となっています。国際運転免許証は紙製であり、最近の運転免許証に使われるような偽造防止技術、つまり「すかし」技術や「ホログラム」技術など一切使われていません。
さらにやっかいな事に、正規の国際運転免許証は見た目が統一されていません。国際運転免許証はジュネーブ条約によって基本的な様式は定められていますが、実際には100を超えるジュネーブ条約の加盟国・加盟領域が、それぞれ独自の裁量によって、色、素材、そしてサイズ等の様式で発行しています。そして、それらが一元的に管理されているわけでもありません。
さらに、国際運転免許証のルールを定めたジュネーブ条約が定められたのは、第二次世界終結から4年後の1949年です。条約加盟当時から独立や分裂をしている国や領域もあり、ジュネーブ条約を管理している国連によっても最新の加盟国・加盟領域は管理されていません。
そう、国際運転免許証が本物か偽物なのかを判断するのは非常に難しいのです。
そのため、日本で有効な国際免許証を発行できない中国人訪日旅行客が、偽装の国際運転免許証を使ってレンタカーを運転していると数多く報道されているにも関わらず、無免許運転で捕まっている中国人訪日旅行客や、無免許幇助で使っているレンタカー事業者の話はほとんど聞こえてきません。
ターゲットにされてしまった「フィリピン」
中国人訪日旅行客は、この謎の国際運転免許証をどのように入手しているのでしょうか。
なんと、中国のインターネット通販サイトで普通に購入しているのです。そこで販売されている謎の国際免許証の多くは「フィリピン」や「香港」で発行されたとされる国際免許証の偽造品となっています。それらは中国から発送されるのではなく、多くは発展途上国から発送されています。発展途上国では、屋台が並ぶ市場などでも偽造の身分証などが普通に販売されているのです。
中国人訪日旅行客が、中国のパスポートとフィリピンの国際免許証でやってくるという問題として取り上げられていますが、対策を取るのは実は結構難しいのです。
「偽造品を使っている人が多いので中国人はお断り」とすると、人種差別、国籍差別になってしまう可能性があるため、偽造の国際免許証だけを防ぐ必要があるのです。
中国籍の人がフィリピンの国際免許証を持っているからといって、偽造品だということはできません。なぜなら、例えば、フィリピン在住の中国籍の方は、中国籍であり、フィリピンの国際免許証を正規に発行でき、それが有効だからです。フィリピン在住だけでなく、フィリピンに過去に在住したことがあって、そのときに運転免許証を取得した場合も正規の国際免許証を発行できます。
フィリピンへの渡航歴を聞くというのは1つの手段ではありますが、確実ではありません。
実は、国際免許証は基本的に現地に渡航しなければ取得できないものではありません。
郵送での手続きをしている国もありますし、代理人での取得ができる国もあります。
ただ、フィリピンの場合、フィリピンの国際免許証を取るためには、フィリピンの運転免許証が必要で、フィリピンの運転免許証を取るには、新規に取得するか、外国免許の切り替え手続きが必要になります。そして、その手続きはフィリピンで行わなければいけません。
つまり、フィリピンの場合、渡航したことがなければ、フィリピンの運転免許証を取得できず、すなわちフィリピンの国際免許証を取得できないのです。
しかし、渡航歴の確認をしようとしても、自己申告をしてもらう以外に明確にフィリピンへの渡航歴を調べることができないのです。過去のフィリピンへの渡航歴ですが、パスポートへの押印をチェックしようとしても、パスポートが新しい冊子になっていることもあるでしょう。2重国籍でパスポートを2つ以上持っている人の場合には、もう1つのパスポートでフィリピンへ渡航していた可能性もあります。極論を言えば、パスポートへの滞在歴を示すスタンプを自分で押されたとしても、単なるスタンプであるため、真贋鑑定は実質不可能といえます。さらに、クルーズ船などで上陸する場合には、パスポートは船に置いてきて、パスポートのかわりに上陸許可証を持ち歩くことになっています。そして、上陸許可証には、過去の渡航歴などは記載されていません。
よくレンタカー事業者のホームページには、国際運転免許証とパスポートが必要と記載されていますが、国際運転免許証で運転できるかは、道路交通法上、国際運転免許証の原本があれば足りて、上陸から1年以内であればよいことになっているので、パスポートが必要な訳ではないのです。
つまり、自己申告で「過去にフィリピンに渡航した」とされる場合、それを覆すだけの根拠をレンタカー事業者は調べることが不可能です。そして、警察においてもその場で調べることは難しいのです。
偽造品対策のいたちごっこ
偽造品については、偽造と対策のいたちごっこが続きます。それは国際運転についても同じです。一部のレンタカー事業者が、フィリピンへの渡航歴チェックをはじめたことなどから、最近では「香港」の偽造国際運転免許証の人気が上がっているようです。
フィリピンへの滞在歴のない方が、フィリピンの偽造国際運転免許証を作ろうとすると、フィリピンの運転免許証と、国際運転免許証の両方が偽造になります。一方で、中国の運転免許があれば、簡単に香港の運転免許証を取得することができます。重ねての説明になりますが、中国本土住民が香港で申請する場合には代理申請が可能で、居住の必要もありません。香港運輸署が要求するのはパスポートと住所を証明する書類のみ。住所証明がなくても香港域内に連絡先があれば申請ができます。そのため、本土中国にも香港にも多くの代理店が存在しています。この場合、香港の運転免許証は本物で、香港の国際免許証が偽造と言うことになるのですが、これはフィリピンの判定よりもさらに難しくなります。フィリピンの謎の国際免許証が多く報道されていますが、香港の謎の運転免許証についてはあまり報道されていないことも納得がいきます。
香港の国際免許証の場合、フィリピンのように渡航が必ずしも必要になるとは限らないからです。一方で、香港の国際運転免許証を発行するには、香港身分証(IDカード)が必要になります。
では、偽造品対策としてはフィリピンの国際運転免許証保有者には、フィリピンへの渡航歴を証明できるものを、香港の国際運転免許証保有者には、香港身分証(IDカード)の携帯を義務付けるなどの方法があると考える人もいるかもしれません。
このような規制は、人種差別・国籍差別につながってしまうほか、ジュネーブ条約24条第1項により、有効な国際運転免許証のみで「新たな試験を受けることなく、自国の道路において運転することを認めるものとする」と定められていることから、条約違反になってしまうのです。
各国が国際運転免許証の発行国によって必要な書類などを定めだしてしまえば、利便性を高めるためにつくられたジュネーブ条約そのものの意味も薄れてしまいます。日本人旅行者も海外に行ってレンタカーを借りる際に国際運転免許証とは別に、訪問国によって必要な書類が異なるといわれたら、かなりの煩雑さになり、利便性を求めた条約の意味が薄れてしまうのです。
結局のところ、実質的かつ効果的な偽造品対策としては、見た目で判断するにつきます。
ブランド物の偽造品対策と同じ事です。正規品をリストアップし、正規品の特徴及び偽造品の特徴をまとめ、それを元に見抜いていくしかありません。
中国人訪日旅行者だけでない謎の国際運転免許証
ここまでは中国人訪日旅行者の謎の国際運転免許証について説明をしてきました。
しかし、国際運転免許証の問題は、中国人訪日旅行者だけの問題ではないのです。
サウジアラビア、メキシコ、カタール、ザンビア等においては、ジュネーブ条約の加盟国でないのですが、ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証を正式な書類として発行しています。
そのため、この国際運転免許証はジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の様式はしているので、日本で有効であると記載がされています。しかし、日本においてはジュネーブ条約の加盟国が発行しているわけではないので、有効な運転免許証としては扱われません。
ほかにも米国連邦取引委員会や在日アメリカ大使館において、詐欺の国際免許証について触れられています。アメリカ合衆国はジュネーブ条約の加盟国であり、アメリカ合衆国で正規に発効された国際免許証は日本で有効な国際免許として扱われます。そのため、本来正規品の国際運転免許証を取得可能にもかかわらず、だまされて詐欺の国際運転免許証をつかまされている例です。
ジュネーブ条約第24条1項に「締約国若しくはその下部機構の権限のある当局又はその当局が正当に権限を与えた団体」しか国際運転免許証を発行できないと定められています。
アメリカ合衆国はその当局が正当に権限を与えた団体として「AAA」と「AATA」を指定しています。しかし、勝手に国際運転免許証と称した書類を発行している民間団体があるのです。ただ、それは偽造された国際運転免許証ではなく、どこの国でも有効でない国際運転免許証と書かれた書類なのです。そのことを知らない一般ユーザーは、インターネットで表示される偽の情報を信じて、正規品でない詐欺の国際運転免許証を購入させられているのです。
ジュネーブ条約には100以上の加盟国・領域があり、それぞれに正規の国際運転免許証を発行できる機関が指定されています。しかし、それはリスト化されておらず、事前に各国に問い合わせておかなければわからないのです。
レンタカー事業者は、詐欺の国際運転免許証の様式をリスト化しているか、独自で正規の発行機関をリスト化しておくか、見た目で判断できなければ、この詐欺の国際運転免許証を判断することはできません。ただし、アメリカ合衆国など一部の国については正規の発行機関が公表されていることから、正規の発行機関かどうか判断することは難しくありません。しかし、正規の発行機関が知られていない国については、事前に正規の発行機関のリストがなければ判断のしようがないのです。残念ながらこれは、警察においても同様なのです。
レンタカー事業者の誤った対応方針が問題を助長し、国籍差別につながる可能性
平成30年4月6日の日経新聞において、大手レンタカー会社で「発行がパスポートと同一国でなければ自動車を貸し出さない」という方針を掲げていることが報道されています。
レンタカー会社対応はまちまち
国際免許証をめぐる対応はレンタカー会社によってまちまちだ。大手のニッポンレンタカーは「国際免許証の真偽の判断は難しいため、発行がパスポートと同一国でなければ自動車を貸し出さない」との方針を掲げる。全国レンタカー協会(東京)は各国・地域が発行する国際免許証の確認ポイントをまとめたマニュアルを作り配布している。ただ、店頭で時間をかけて多種多様な国際免許証の真偽を確かめるのは難しく、パスポートの提示を求めるのかどうかも店舗の判断に任されている。
日経新聞(平成30年4月6日)
日本において、取引するかどうかについては当事者間の自由ですが、少なくとも、国籍によって差別されることがあってはいけないものと考えられます。
有効な運転免許証を持っているか否かで判断されるべきものが、大手レンタカー事業者が、真偽の判断が難しいという理由から、国籍と同一の運転免許証を持っていなければ取引しない方針と明言するのことは、国籍による差別であると指摘する人もいます。
そもそもレンタカー事業者は、貸渡しについて定めらた約款についてする運輸
支局長に届け出することが定められており、自由に内容を解釈することは許されていません。国籍によって判断するという方針は、確かに取引の自由という枠を超えた国籍による差別であると指摘を受けても仕方がないように思えます。
さらに最悪なことに、この対応策は、中国人が偽造のフィリピンの国際運転免許証を使うことは防げたとしても、偽造の香港の国際運転免許証を使うことは防ぐことができません。むしろ誤った対応により、偽造の香港の国際運転免許証を見抜くことが難しくなり、問題を助長することにもなりかねません。
さらに現在、ヨーロッパなどにおいては、欧州経済領域(EEA)圏内については、加盟国の運転免許証を相互に認証しあう仕組みができていることや、欧州連合(EU)は圏内の移住について自由にできるようにしています。
そのため、国籍と運転免許証を保有している国が異なることは、むしろ普通に起きていることです。実際、ルクセンブルク等の欧州経済領域(EEA)加盟国において国際免許証の発行条件として求められるのは、欧州経済領域(EEA)加盟国の運転免許証となっており、国籍と同じ国の国際運転免許証になるかどうかは、不確かなわけです。
そのため、「発行がパスポートと同一国でなければ自動車を貸し出さない」という大手レンタカー事業者の指針は、何ら解決策ではなく、別の偽造国際運転免許証の利用を助長する可能性がある上に、正規の国際免許証を保有している訪日旅行者を拒絶することにつながってしまいます。
特に観光立国を目指している日本において、大手のレンタカー事業者が国際免許証の確認が難しいと、対応をあきらめてしまったこと、誤った指針を示してしまったことについて非常に残念に思います。
なお、この日経新聞の記事において、「パスポートの提示を求めるかどうかも、店舗の判断に任されている」と記載がありますが、若干誤解を生む可能性があるので、補足させていただきます。
レンタカー事業者だけでなく、車両を貸し出す際には、相手が無免許でないことを確認しなければならないと道路交通法で定められています(無免許運転ほう助に該当します)。
国際運転免許証については、入国後1年間しか有効でないため、有効性を確認するために少なくとも「入国日」を確認する必要性があります。入国日を確認するためには、通常はパスポートの入国日を確認しますが、船などで来日した場合には上陸許可証で入国日を確認することになります。
そのため、パスポートで入国日を確認する必要はありませんが、少なくとも国際免許証の有効性を確認するためには、入国日を確認する必要性があります。
偽物の国際運転免許証を防ぐために
残念ながら、国際運転免許証には、偽造品もあれば、詐欺の国際免許証も存在していることがわかっています。しかし、訪日旅行客が日本でレンタカーを運転できるのと同様に、日本人が海外旅行の際にレンタカーを借りれるのも同じく国際免許証のおかげであり、多くの恩恵を受けています。
だからこそ、偽物の国際運転免許証の利用を止めなくてはいけません。かといって、警察がすべての国際運転免許証の保有者のチェックをするというのは現実的ではありません。
国際運転免許証は、有効期限が最長でも1年間なので、主として旅行者が利用します。そのため、多くの国際運転免許証はレンタカーを利用する際に使用されています。つまり、レンタカー事業者が国際運転免許証の有効性を正確に判断することができれば、実質的に偽造や詐欺の国際運転免許証を利用され、無免許で運転されるということを水際で止めることができます。
そのためには、レンタカー事業者全体が国際運転免許証の正規品かどうかを見分けるためのチェックポイントを把握して、マニュアル化することで精度をあげていく必要があるのです。